バレンボイムのブルックナー第8番2016年02月19日



〈ブルックナー交響曲ツィクルス8〉
2016年2月19日(金)
ダニエル・バレンボイム+ベルリン国立歌劇場管弦楽団@サントリーホール

ブルックナー: 交響曲第8番 ハース版


交響曲愛好家なら誰もが認める名曲かつ大曲のうちの1つがこのブルックナーの交響曲第8番。
そして、ブルックナー好きが気にするのが版や稿。
今回の第8番はハース版。
ノヴァーク版との違いは第4楽章の方が顕著だけれども、個人的に気になるのは第3楽章。
やっぱり209小節から218小節はカットしたらいけません。

この前の第5番は峻厳な奇跡的な名演だったけれど、果たして今回はどうなるのでしょう。

結果は…

一言で言うと快演。
ブルックナーの交響曲の中で一番長大なこの曲。
古くは、クナッパーツブッシュやシューリヒトなどが名演を残し、その後、朝比奈やヴァント、チェリビダッケ、そしてご存命のマエストロではハイティンクやスクロヴァチェフスキが後を継いでいるこの曲。
バレンボイムは意外なほど「あっさり」とやっつけてしまった。

勝手に想像するに、ポイントは2点。
1つは「遅くなり過ぎないこと」、そしてもう1つは「1拍目を強調し過ぎないこと」。

この2点により、本来は重厚長大なこの曲が、単に重々しいだけでなく、とても雄大でかつ懐が深いものになった。(と思う)
特に第3楽章は、正しく綿々たる叙情を余すところなく表現しきったと言えるのでは?

全般的に、もう少しだけ「タメ」があれば文句なしだったと思うのは、己の未熟さ故かも…

バレンボイムのブルックナー第9番2016年02月20日





〈ブルックナー交響曲ツィクルス9〉
2016年2月20日(土)
ダニエル・バレンボイム(Cond,Pf)+ベルリン国立歌劇場管弦楽団@サントリーホール

モーツァルト: ピアノ協奏曲第23番
 ~ アンコール曲 ~
 モーツァルト:ピアノソナタ第10番から第2楽章 アンダンテ・カンタービレ
 モーツァルト:ピアノソナタ第10番から第3楽章 アレグレット
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ブルックナー: 交響曲第9番 ノヴァーク版


2月9日から始まった歴史的なブルックナー交響曲ツィクルスもついに最終日。
とても寂しい…

前半のモーツァルトのピアノ協奏曲第23番。
久しぶりに聴くバレンボイムのピアノは今日も軽やか。
SKBとの掛け合いも心地良い。
でも、今まで聴いてきた27、20、24、26、22番と比べると、アンサンブルの精緻さが今一つ。
音合わせの時間が足りなかったのかな?

今日は自分にしては珍しく、コンサートの約30分前にコーヒーを1杯。
これが悪かったのか、鑑賞途中から尿意が…
最終楽章の最後の一音が響き終わり盛大な拍手。
一旦、マエストロが裾にひいた後、すかさず席を立ちトイレへ直行。

トイレからロビーに戻ると、ステージを写すモニターから何やら音が響いてきた。
おやっ?
何と、ピアノのアンコールが始まったじゃないですか!
しまったぁ!
さらに1曲終わったと思いきや、2曲目に突入。
あ〜あ。

気を取り直しての後半はブルックナーの交響曲第9番。
泣いても笑ってもブルックナー交響曲ツィクルスは今日が最後。

結果は…

王道を行く実に堂々たる第9番。
SKBの弦、木管、金管、打楽器がそれぞれの持ち味を出し切り、マエストロの棒に追従。
ダイナミックレンジが広く、かつ緩急自在な演奏は、結局最初の第1番からこの第9番までブレることなく一貫していた。
やはりこのオケは別格だ。

マエストロの棒は今日もキレキレ。
この人、本当にブルックナーが好きなんだなぁ。
少々淡白過ぎなフレーズもオーバーデコレーションな演出もあったけれど許容範囲。

気になったのは音のバランス。
金管が主旋律を担当する小節でも、弦が金管に勝るシーンが散見された。
これは、昨日の第8番の第1楽章でも同じ。
まさかマエストロの耳がおかしくなってきた訳ではないと思うけれど…

終演後のいつまでも続くカーテンコールは今回も健在。
ただ、居残っている聴衆の数は昨日までの比ではない。
皆、マエストロとの別れを惜しんでいるんだろうなぁ。


追記:
今回のツィクルスの総括は頭を冷やしてからにしよう。

私は歴史の目撃者となった2016年02月21日





ブルックナーの交響曲を短期間に1番から9番まで順を追って演奏する。
言わば、ブルックナー連峰を縦走するようなもの。
聴いているだけでも結構ハードだったから、マエストロやSKBの皆さんの肉体的・精神的疲労は相当だったはず。

さらに、オケのメンバーには降り番があるからまだ良いものの、マエストロはほぼ不休。
数少ない休日には、休息をとるのではなく、ヤルヴィの指揮を鑑賞しに行ったそうだから、正にアイアンマン。

加えて、モーツァルトのピアノ協奏曲は全て弾き振り。
弾き振りだから楽譜なんて見ている暇はないから当然暗譜。
さらに、交響曲第1番と2番は楽譜を使用していたけど、3番以降は全て暗譜。
これだけとってみても「偉業」としか言いようがない。

今回のチクルス。
自分なりにどんな演奏になるのか事前に想像はしていた。
それとは異なっていた、あるいはそれを遙かに超えていたのは次のとおり。

・第1番(リンツ稿)の想定外の重厚感
・第3番の完成度の高さ
・第5番の桁外れの構成力・完成度
・第8番の(良い意味で)胸に突き刺さらないマイルドさ

個人的なランキングは次のとおり。
今回の9曲の中でのベストワンは第5番。
これは正に奇跡的な大名演だったので異論はまずないはず。

そして、次に来るのが意外や意外、第3番。
第2稿をもとにするエーザー版の瑞々しさを見事に表現。
生粋のブルオタを自認する自分にとって、この演奏は正に目から鱗。

第3位はやはり最後の第9番になるのかなぁ。
最終楽章の極端なデュナーミクやアゴーギクは若干気になったものの、王道を行く正に名演。

今回、マエストロがブルックナーの交響曲全曲演奏をここ東京で披露してくれたことはとても意義深いことだし、有り難いこと。
ただただ、その心意気と実行力に頭を垂れるのみ。

死ぬまでにこのような一大プロジェクトに再度遭遇することはできるのだろうか?


追記:
バレンボイムのピアニストとしての評価についてはノーコメント。

新ヤマカズのマーラー5番2016年02月27日





今日は新ヤマカズのマーラー5番。
その前に、名曲喫茶「ライオン」に寄り道。
階段を上がり、ドラマ「相棒」でヤミ金社長が座っていた席へ。
モーツァルトのレクイエムが流れているけど、誰の指揮だろう?


平成28年2月27日(土)
山田 和樹+日本フィルハーモニー交響楽団@オーチャードホール

武満徹:ア・ストリング・アラウンド・オータム
(ヴィオラ:赤坂 智子)
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マーラー:交響曲第5番

前半は武満。
プレトークでマエストロいわく「たゆたう」感じ。
正にそれ!
この武満ワールドに身を委ねることの何と幸せなことか。
ヴィオラの赤坂さん、お初だったけどお上手なこと。
今度はバロックや古典あたりを聴いてみたいな。

後半はマーラー5番。

結果は…

オケは良かった。
チェロやヴィオラを始めとする弦、トロンボーンを始めとする金管、フルートを始めとする木管、ティンパニーを始めとする打楽器、皆ハイレベル。
ホルンが若干不安定だったけど、許容範囲。

問題は指揮。
第1、第2楽章は「おっ、さすが新ヤマカズ!」と思わせるものが随所にあった。
音の薄い部分でも、ことさら主旋律を強調することなく、楽器間の会話を十分にさせて進めて行く。
特に内声を十分に機能させている点はさすが。
今回のマーラー・ツィクルス第2期のテーマ「深化」をまさに具現化できていたように思う。

しかし、第3楽章。
マエストロも言っていたとおり、この5番の中では最も長く、かつ重要な折り返し地点となる楽章。
ここで、指揮に迷いがあったのか、どっちに進んで良いのか分からなくなってしまった感じ。
聴いているこちらが気分的に迷子になってしまい、おしりがむず痒い。

第4楽章アダージェット。
これまた、チャレンジングなことに超スローテンポ。
日フィルの弦が精一杯頑張った。
でも、さすがにここまで遅いと若干の失速感は否めず。

最終楽章を何とか綺麗にまとめ上げたものの、全体を遠目で眺めてみると、何とも収まりの悪い絵画と言うのか、安定が悪い壺と言うのか、ちぐはぐなものになってしまったように感じられた。

ん~、天下の新ヤマカズに激励の「喝!」。

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